一時帰国に至った経緯

日本への一時帰国まであと1週間に迫った。

この旅の計画を決めたのは半年前のことである。高齢で独居である母のために僕は年に一度は帰国することにしているが、まさか、年末年始に帰ろうなどとは全く頭にのぼらなかった。事の発端はこうだ。妻が実家のお姉さんとたまたま電話で話した時に「アメリカ生まれの(ウチの)子供たちもたまには日本のお正月を体験させてあげるのもいいよね」という話題になり、すっかり妻はその気になってしまった。「お姉ちゃんがああ言ってくれている時がチャンスなんだ」と妻は言うが、きっと会話の流れから言葉の綾でそういう話題になったに違いない。実家のお姉さんだって年末年始の超忙しい時に、アメリカから7人もの客が押し掛けてきたらたまったものではなかろう。そう思って僕は随分反対したのだが、反対すると頑なに我を通そうとする妻の性格まで変えることはできない。おまけにこの楽しい計画に子供たちまでノリノリになってしまい、ますます妻を本気にさせた。

ちなみに妻の実家は農家だったから敷地が広く家も大きいため我々のような大家族が訪れても泊まれるスペースは十分にある。実際子供が小さかった頃に家族全員でお世話になったこともあった。子供たちはその記憶があってか同じように歓迎されると思っているようだった。しかし、あの時、季節は夏でみんな小さな子供だったわけで、現在の状況とは全く違う。そういう現実を踏まえた上で話を進めるのなら「ご自由にどうぞ」としか僕は言えない。僕はいっしょに参加するつもりはなかった。年に一度の帰国は3月と決めていたし、そもそも、前回の帰国から一年も経っていない。僕は僕でまた3月に単身自分の母を見舞うために一時帰国するだけのことであった。

それからというもの、僕を除いた家族の中では旅の計画が盛り上っていった。日本行きの飛行機料金も頻繁にチェックしていて、安くなったら即買おうという心構えになっていた。そんな中、実家のお姉さんは妻の本気度を知って対策を考えたようだ。お姉さんの友人に以前民泊をやっていた人がいて、今は誰にも貸してない一軒家があるから安く泊まれるように頼んであげるというのである。もしそれが叶うならばこちらもあちらもお互いに気遣いをしないで過ごせるグッドアイデアだった。それは「年末年始の多忙な時に家には来てくれるな」という先方のサインでもあったが、その代わりに内輪だけで集まって新年会の場を作ってくれるということである。あとの日程は基本的に自由行動で、レールパスを使ってそれぞれが行きたいところへ行くという計画となった。最初思い描いていた旅の構想とはいささか違ってしまった様子だ。長男はなんだか自分たちが仲間外れにされたようで面白くなさそうだった。自由行動といっても子供たちに旅の計画が立てられるとは思えなかった。一応みんな大人であるが(高校生の末っ子を除いては)日本語はうまく話せず、ひらがなしか読めず、日本の地理もよくわかっていないのだから。ましてや年末年始でどこもかしこも人でごった返している時期である。僕は不安を募らせた。

長男は大学卒業後ジョブをゲットして以来金持ちになったこともあって最近三年間で3回も日本に旅行をしている。彼に伴って次女と四女も行ってきた。長女は友達と2年前に行った。彼らは日本のメジャーな観光地は一応見て来たので、他にどこを見たらいいのか特に思いつかない。一方、三女と末っ子(次男)は小さい頃に家族で連れて行って以来、もう10年も日本に行っていない。この二人に自由に旅をしろと言っても無理だろう。「これはキビシイな」と僕は思った。「なんてこったい。年末年始はあれほど嫌だと言っていたのに!」

そういう事情で、僕は3月の自分の計画を繰り上げて、一緒にこの旅に参加することにしたのである。まあ、僕としては家族に対する最後の奉仕というか、子供に対する責任感(単なる親馬鹿かも)が入り混じったような心情で決意をしたわけである。そして、2週間の旅行の後に家族をアメリカに返して、僕だけさらに2週間を母と過ごそうと計画した。そうすれば、年に一度の母を見舞うという約束も果たせる。「よし、これでいこう」と僕は自分の中で決意を固めた。

ひとたび「これでいこう!」と決めると、不思議なもので、インスピレーションのようなアイディアが次々と湧いてくるものだ。考えてみれば若い頃はいつも何かに迷っていた。一旦は決めたはずなのにすぐに心が揺らぐということがしばしばだった。こんな輩は高次元のスピリットたちもどう助けていいのかわからないというものだ。できる奴、運のいい奴と言われる人は要するに決意の質が違っているということなのだ。そんなことがこの歳になってやっと解りかけてきたとはね。論語には「40にして迷わず」という言葉があるけれど、自分の場合は10年は遅れているのかもしれない。「もっと若くしてこの境地に達していれば」などと考えてしまう。

天の導きもあってなんとか旅の計画もまとまり、準備も順調に進んできた。さて、どんな「まなび」が待っているのか。実は、少しずつワクワク感が高まりつつある。できるだけタイムリーにブログに上げてゆきたいが、果たして旅先で「書く」という時間が取れるかどうか。自分にとって「アウトプット」を意識した初めての旅である。どうなることやら全くわからない。わからないところがまたワクワクなのであるが。

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